図書館と著作権法

◆図書館と著作権

 休日に図書館に行くと机はいつも満杯、長引く不況のせいもあって、余った時間を図書館で過ごす人は増えているようですね。図書館は確かに便利です。当たり前のことですが、お金を出して買わなくても本を家に持ち帰って読むことができます。ところが、本を一生懸命書いた著者にとっては、できれば著書を買っていただきたい、というのが正直な気持ちでしょう。図書館という制度はある意味で著作者に馬鹿にならない不利益を強いています。しかし、図書の公共利用は「国民の教育と文化の発展」という重要な役割を果たしています。それに著作権法は、著作者の利益を守るだけではなく、文化の発展に役立つように、権利者と利用者との関係を調整することを目的としています。そんなわけで、図書館を利用するときに意外なところで著作権法がからんでくるのですが、小話で簡単に説明しましょう。

◆小話
ある日、A氏が雑誌コーナーで何気なく手に取ったある経済誌。自分が勤める会社に関するちょっと気になる記事があった。もうすぐ閉館時間なのでコピーして持ち帰ろう。コピー機のそばに行くと「こちらの用紙にご記入ください。」と張り紙がしてある。用紙には「複写申込書」とあった。住所氏名、複写したい本の名前、コピーするページ数まで記入しなければならない。実に面倒だ。たかがコピーするくらいで、どうしてこんなに面倒なのか?。A氏はぶつぶつ言いながら書き込んで用紙を職員に渡した。すると、

「この雑誌は新刊なのでコピーはできません。」

 「・・・!?」

 普通の人ならここであっさり引き下がるのだろうが、ここは一つA氏と一緒に図書館のコピーに関する著作権法にふれてみよう。

 著作権法では、著作権者の権利を守るため、原則として著作権者の許諾なしに著作物を複製することを禁止している(自分が楽しむ目的で本をコピーするのはよい:著30条)。しかし、著作権法31条1項にこんな規定がある。

「図書館は利用者の求めに応じ、利用者の調査研究を目的として、公表された著作物の一部分を、1人につき1部のみ複製できる。」。

「調査研究」というとなんとなくおごそかな感じを受けるが、よく考えてみると、本をコピーする場合はたいていこの定義に当てはまりそうだ。営業目的であったり、遊び半分でという人はほとんどいない。次に、「公表された著作物」でなければならないというが、公表されなければ図書館で見ることはなさそうなので問題ない。とすると、1人につき1部というのはどうか。「えっ、10ページのうち1ページから3ページまでコピーしたかったのに」 というのは問題ない。1部というのは、同じページについて2枚以上のコピーをしてはいけない、ということである。著作権者の保護を考えて、コピーできる枚数は必要最小限に抑えてあるのだ。だから、1部は自分用、もう1部は友人用などというのは法律上引っかかることになる。

 さらにもう一つ。コピーする部分はその著作物の一部分でなければならない。だから本の全ページをコピーすることはできない。だったら自分で金を出して買ってきなさいということだ。しかしながら、雑誌の場合は注意を要する。本の場合はたいてい1冊そのものが1つの著作物である(異論もあります)が、雑誌の場合はたくさんの寄稿によって成り立っている。つまり、著作物の寄せ集めであるとえるのだ。となると「著作物の一部分」とは、雑誌1冊の一部分ではなく一寄稿文の一部分という意味になる。であるから、「××会社の不正を暴く」などという論説の全部をコピーすることはできず、その一部分ならよろしい、ということだ。 といっても、論説の一部分のみをコピーしても意味がないではないか。だから、図書館の職員は「雑誌はコピーできません」と説明することになる。厳密には、コピーはできるが著作物全体のコピーはできない、とA氏に説明するのが筋だが、そんなことをいきなり一般市民に説明しても「こいつはアホか?」と思われるのがオチだ。

 さて、コピーできないことはわかったA氏だが、やるせない思いで雑誌を元の場所に返しに行こうとすると、隣のコピー機で雑誌をコピーしている女性がいる。「なんだ、美人ならいいのか?」などと思ってはいけない。というのも、雑誌については著作権法で特別の規定があるからだ。同法31条1項の括弧書きには、「発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあっては、その全部をコピーしてよい。」 旨が書いてある。要するに、発行から一定期間(通常週刊誌などは1週間)を過ぎた雑誌などは、著作物全体をコピーしてもかまわないということである。週刊誌などの定期刊行物も社会にとって貴重な情報源であるし、定期刊行物は古くなると書店で入手するのが困難なこと等を考慮して定められた規定であろう。

 ところで、図書館では著作物(一定期間を過ぎた定期刊行物を除く)の一部分しかコピーできないことになっているが、100ページある本のうち99ページをコピーするというのはどうか。これは法律に規定はないが、判例によると著作物のページ数の半分を超えると、もはや一部分とは言えないとされているようだ。だから、コピーをするときは、まずその著作物全体のページ数、そして自分がコピーしたい部分のページ数を確認する必要がある。

 さてA氏。この雑誌を図書館でコピーできないことはわかったが、本を借りたあとで近所のコンビニなどでコピーするのなら、私的使用(著30条)にあたるので法律上問題ないははずだ。図書館としては何の制限もできないだろう。あとは本人次第である。さて、これに気づいたA氏、早速例の雑誌を借りて外のコンビニでコピーしようと、雑誌を持って受け付けカウンターへ向かった。すると、

 「図書館の規則で、新刊はお貸しできません。」

ということであった。

          完

◆余談

 図書館での著作物利用については疑問に思うことが多々ありますが、それは本来的に図書館の存在が著作者にとって好ましくないという性質をもっているからだと思います。著作物の一部分しか複製できないということを生真面目に実行すると、市民のイラダチは大きくなります。論説の一部分だけしかコピーできないといっても、一体どこまでがひとまとまりの著作物なのか。地図をコピーするような場合、1ページがひとまとまりであるという根拠はどこにあるのか。そういった中途半端な利用をさせるために図書館が税金で図書を購入して良いのか、といった議論もありうるでしょう。また、図書館は貸与する機関なのに、なんで複製を認めているのか? という議論ももっともでしょう。悩むところです。