童話続編 その9

もしも、人の顔や姿を使うときは ~ 肖像権

ある日、ダルマロがいっしょうけんめいに絵を描いているのを見て、ランジェロはのぞきこみました。


「ダルマロさん、いったい何の絵を描いているんです? おや、この人は・・・。ポーロさんの顔じゃないですか」


ダルマロはニヤっと笑って、


「そうだよ。この絵をポーロさんの小説の表紙にのせるのさ。いいアイデアだろう。」
と言いました。


ランジェロは少しいやな予感がしました。
ポーロさんは人前に出るのがとても恥ずかしくて、昼間は家の外にあまり出ようとしない小説家なのです。
童話の挿絵 絵を描くダルマロを見ているランジェロ

 

 

 

 

 


「ポーロさんの顔の絵を表紙にのせること、ポーロさんは知ってるんですよね。」

と聞くと、ダルマロは

「なんだい、ポーロさんが書いた小説の表紙だぞ。作者の顔の絵くらい、勝手にのせたっていいじゃないか。このダルマロさまがポーロさんの絵を描いてくれるだけでも、ありがたいと思ってほしいね。」
「それはどうかなあ? きっとポーロさんはいやがると思うなあ」

 とランジェロは不安そうに言いました。しかしダルマロは


「この絵を描いたのはわたしで、ポーロさんじゃあないんだ。著作権だって私にあるのだしね。」


と、気にもとめない様子です。


「そうですか、じゃあ、もし私がダルマロさんの絵を描いて勝手に使ってもいいのですか?」


と聞くと、ダルマロは


「いいともいいとも、好きにするがいいさ。へっちゃらさ。」


と言って絵を描き続けています。
するとランジェロは急いで絵の具と筆を手にとって、絵を描き始めました。

あっというまにダルマロの顔の絵が出来上がりましたが、そのダルマロの顔にはヒゲがありませんでした。


「ダルマロさんの大きなヒゲは、にせもののつけヒゲなんですよね。だから、ヒゲはとってしまいました。」


「わあっ、なんでそのことを知ってるんだい! そんな恥ずかしい絵をぜったいに誰にも見せないでくれよう。」


「そうは行きませんよ。だって、勝手に使ってもいいと言ったじゃないですか。」


「いや、それはその、恥ずかしいから仕方がないじゃないか・・・」


するとランジェロは腕を組んで言いました。

童話の挿絵 ダルマロの肖像を描くランジェロ

 

 

 

 

「ポーロさんだって恥ずかしいと思うかもしれませんよ。やっぱり、勝手に人の顔や姿を大勢の人に見せるのは、とても危ないことだと思います。今すぐポーロさんから承諾をもらってくれますか?」

「う、うん。わかったよ。すぐにポーロさんと話をしてくるよ。」

と言って、ダルマロはヒゲをおさえながらポーロさんの家へ出かけてゆきました。

 

 それからしばらくして、ダルマロが帰ってきました。

「あーあ、さっきの話、ポーロさんに断られてしまったよ。顔が有名になったら、恥ずかしくてもう町を歩けないってさ。」

とため息をつきました。


「そうだろうと思ったんです。せっかく絵を描いたのに残念でしたね。」

 と、ランジェロはダルマロに少し同情している様子です。


「ところでランジェロ。人の顔や姿を勝手に使わせない権利があるとしたら、なんという名前の権利だろう。」


「そうですねえ。私は、顔や姿のことだけじゃなくて、人が静かに安心して生活することを守ってあげることが大事だと思うんです。人には、知られたり、見られたりしたら困るものがありますよね。例えばダルマロさんのヒゲのこととか。」


と言って、ランジェロはフフンと笑いました。


「それはつまり、プライバシーということかい?」


「そう、それ! プライバシーですよ。だからプライバシー権。とくに顔や姿を勝手に利用させない権利については、肖像権なんて呼び方はどうでしょう。」


「プライバシー権と肖像権かあ。法律には書いてないけれど、そういう権利がないと困るよなあ。」


と言ってから、ダルマロは首をかしげました。


「ちょっと待ってくれよ。前にポーロさんが王様の生活態度が悪いという文章を出版したけれど、ああいう場合は王様のプライバシーの問題にならないのかなあ。」


「そうですねえ。でも王様は国民のために王様としての義務や責任を背負っていますよ。王様のことは国民のすべてが知っておかなければならないことだから、王様にはプライバシーのことを我慢してもらうことになりそうですねえ。」

 それを聞いてダルマロはうなづきました。

「そうかあ、王様は別かあ・・・。」

おわり

 

 

 

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肖像権とは

19-A 肖像権とはどのような権利ですか。

19-B 肖像権に関する法律はどうなっているのでしょうか。


◎ヒント

肖像権はプライバシーに関係しています。プライバシーはどのように守られるべきでしょうか。

民法の不法行為責任という考え方はとても重要なので、できれば子供たちにもかんがえてもらいたいです。中学生にはちょっと早いかな。。

☆肖像権とパブリシティー権

☆著作権侵害の民事責任