プライバシーと有名人の利益を守る
肖像権とパブリシティー権 

 肖像権(しょうぞうけん) 〜  自分の肖像を他人に使わせない人格的権利のこと
 
 パブリシティー権 〜 顧客吸引力がある肖像や名前の利用を専有する権利のこと






      
◆プライバシーをふみにじることは迷惑なことですが・・・

  誰だって私生活の様子は見られたくないし、姿や名前が雑誌やテレビで世間に流れてしまうと、名誉が傷ついたり、恥ずかしい思いをしたり、知らない人にねらわれたりするかもしれません。 ですので、この世の中では他人の肖像や名前を勝手に世間の目にふれるようにすることは迷惑なことであり、してはいけないのだと考えられています。
 ワザと、またはミスによって他人に迷惑をかけたら、その人はその他人に与えた損害をつぐなうのが当然です。もし、あなたの肖像や、住所氏名、私生活の様子などが誰かによって勝手に公表されたときには、その迷惑な行為をやめさせるための差し止め請求や、あなたが受けた損失を賠償する請求が、裁判所によって認められるでしょう。

 

◆不法行為の一種
 民法第709条では次のような条文があります。

  • 第709条 
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 民法第709条は不法行為による損害賠償についての定めです。
 プライバシーは「法律上保護される利益」にあたり、肖像も同じように保護されるべきであると考えられています。
 つまり、人には自分の肖像を他人に使わせないで独占する権利があり、これを肖像権と呼んでいますが、法律の条文には肖像権という定めは存在しません。それでも、そのような権利がこの世の中にはあるはずだという考え方が現在では定着しています。
 肖像権という権利は不法行為の一種であり、プライバシーを守るための権利でもあります。
 民法では損害賠償の定めだけで、差し止め請求権については定めていませんが、判例では差止請求が認められた事例があります。
 なお、他人の肖像を利用することが違法だとしても、すなわち犯罪として処罰されるということではありません。 著作権を侵害することは犯罪として刑事罰の対象となっていますが、肖像権の侵害について直接に刑事責任を問う法律が存在しないのです。(ただし盗撮などは処罰規定があります)

◆どこまでが許されるのか
 もしインターネットで、他人が撮影した写真を掲載する際には、著作権者からだけでなく、その写真の被写体である人物からも、許諾を得る必要があるはずです。 しかし、被写体が風景の一部として溶け込んでいたり、画像がボケていて誰なのかがわからない場合など、被写体になった人物に迷惑がかからないようなときには肖像権の問題にならないでしょう。
 最近は携帯電話にカメラがつき、町には防犯監視用のモニターがあって、私達の肖像はいろいろなところで撮影され記録されている時代です。
 こういう世の中では、すべての無断撮影を違法ということもできませんが、撮影することについて、ある程度の正当性というものがなければならないでしょう。
 観光地や街中で写真撮影をすれば、どうしても背景に誰かが写ってしまうものですし、防犯のための監視撮影も仕方がないと言えるでしょう。
 こういったことはバランス感覚で柔軟に判断するしかありません。
 「自分自身を撮影されたくないという利益」と「どうしても撮影しなければならない事情」というものをハカリにかけて判断するのです。ギリシャ神話に登場する「テミス」という神がいます。この神は法の神でもあり、片手に秤(はかり)を持ち、もう片方に剣を持っています。対立する利害のバランスを考えて判断することが法であるという意味でしょう。
 肖像権やプライバシーに関する場面では、法律の知識よりも常識を問われることになります。
 とりあえずは他人の権利を侵害しないよう慎重に判断して、少しでも心配があれば本人から承諾を得て撮影し、利用するようにしましょう。

◆有名人の権利 〜 パブリシティー権

 肖像権を保護する理由として「プライバシーを保護する目的」だけでは納得できない場合がありえます。
 たとえば芸能人のコンサートでの写真を無許諾で販売した場合には、コンサートですでに肖像が公衆に公開されていますから、プライバシーは侵害されていないと言えますし、芸能人の名誉や人格が傷つくということでもありません。
 しかし芸能人はその「肖像や名前」を売ることで収入を得ていて、そのためにプライバシーを犠牲にして人気を得て、その「肖像や名前」の価値を高めようと努力しています。
 彼らにしてみれば、売り物である自分の「すがた・かたち」を不当に利用されてしまうと商売になりません。
 有名人の肖像や名前を利用することが商品やサービスの宣伝につながり、売り上げが増大するのですが、このような効果を「顧客吸引力」と言います。
 現在では顧客吸引力を持つ有名人の肖像や名前を権利として保護する考え方が定着しており、この権利をパブリシティー権と呼んでいます。
 経済的な側面から肖像を保護するので、経済的な肖像権と言ってよいかもしれません。
 この世の中には「公平」という概念があり、他人の才能や努力を利用して利益を得ることはズルイことなので不法行為にあたる考えられる場合があります。
 特に、自身の肖像や名前を広告として利用させることは人格的な保護を犠牲にすることと引き換えなのですから、パブリシティー権は人格権を尊重するために保護されているとも考えられます。
 プロ野球選手やJリーグ選手の肖像や名前(競走馬の名前まで?)も顧客吸引力がありますから、プロ野球のコンピューターゲームの中で実在の選手名や球団名を使用する際には日本プロ野球選手会や日本プロサッカーリーグ等の団体を通じてライセンス処理がなされています。




JAPRPO(肖像パブリシティ権擁護監視機構)


日本プロ野球選手会



    




◆パブリシティー権の対象はどこまでか

 現代社会では顧客吸引力の存在価値が高まり、タレントや有名人に限らず、物体や動物の顧客吸引力にも保護が及ぶのかという問題もあります。

 しかし人間ではない、「物」の顧客吸引力に対して排他的な権利を認めてよいかどうかは難しいところです。
 パブリシティー権は法律としての定めがないので、不明な部分が多く残されています。
 ダービーゲームソフトで使用された競走馬の名前にパブリシティ権があるか、という論争がありましたが、平成12年12月29日東京地裁判決(平成10(ワ)5887)とその控訴審判決では、所有権によっても人格権によっても物の顧客吸引力についての排他的権利を肯定できず、「著名人のパブリシティー権はもともと人格権に根ざすもの」であるという趣旨の判断がでています。
 つまり馬は人間ではないから人格権の保護の対象ではなく、有名人のパブリシティー権のような権利は成立していないということでしょう。
 かといって、人間以外の全ての顧客吸引力を勝手に利用しても問題がないとは言い切れません。パブリシティー権についての判例は今後揺れ動く可能性があるし、状況次第では不法行為にあたる可能性がありますから、慎重に判断していただきたいです。
 

◆パブリシティー権の寿命

 著作権には保護期間がありますが、パブリシティー権の時間的制限については法律上は不明です。
 アニメやマンガのキャラクターには保護期間があるのに、有名人を元にしたキャラクターは永遠に保護されるという解釈がありえます。
 パブリシティー権が永遠なのだとしたら、50年後に美空ひばりさんを元にしたキャラクター人形を作って売るには許諾を得なければなりませんが、鉄腕アトムの人形を作って売ったとしても、著作権としての保護期間は終了しているので許諾は不要です。
 しかし50年後の人々にとって、チャップリンや坂本竜馬と、美空ひばりさんとの間にどれほどの違いがあるでしょうか。
 過去の人間であることでは同じなのに、どうして美空さんにはパブリシティー権があるのか。
 商業的価値があるからといって永遠に保護され、承継されてゆくのは問題があると思います。
 私は死後のパブリシティー権は成立すべきではないと私は思っていますし、もし裁判になれば、そのような趣旨の判決になるのではないかと予想しています。
 かといって実定法の規定がない以上は、タレントの死後も権利があるということでこのまま運用され、そのうちに死後の権利が既成事実となって、判例によって認められることになるのかもしれません。

◆撮影行為自体の禁止
 小型カメラの普及が新たな法規制の必要性を生んでいます。
 盗撮行為は多くの都道府県条例で禁止されていますが、住居や脱衣所、浴場での撮影が想定されているのが専らでした。
 しかし最近では海水浴場など、身体が当人の意思で公衆の目にさらされている状態での撮影についても規制が及ぶケースがあります。
 法律での制定には及んでいませんが、条例レベルの規制があり、都道府県によって違いがあります。
 もともと肖像権の取扱いについては明確な規定が無く、他人の肖像をネット上で無断で公開しても処罰されない状態なので、撮影されてしまえばその後どのように悪用されるかわかりませんし、公開されず個人的に利用されるケースでも、被写体となった人にとっては不愉快に思う場合が多いでしょう。
 しかし撮影行為の規制はどこまで許されるのかが判別しにくく、明らかに悪質な場合でなければ取締りにくいという問題があります。警察に広範な判断を委ねてしまう事に危惧する意見もあるでしょう。

 神奈川県条例の一部を抜粋してみました。
  • 神奈川県迷惑防止条例
  • 第3条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞(しゆう)恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
    (1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接に人の身体に触れること。
    (2) 人の下着又は身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下この条において同じ。)を見ること。
    (3) 
    写真機その他これに類する機器(以下「写真機等」という。)を使用して、人の下着又は身体の映像を記録すること。
 もしこの規定を根拠に、海水浴場での無断撮影を処罰できるのであれば、水泳大会や体操競技でも罰則を適用できる可能性が出てきてしまいます。
 なぜなら、海水浴場での撮影でさえ「著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」にあたるのであれば、その他の場所でも同様の程度で「羞恥させ不安を覚えさせる」状況が、客観的に考えてもいろいろありえるからです。
 海水浴場で水着姿を無断撮影することは確かに良からぬことですが、テレビ局が海水浴シーズンに放送するシーンは、おそらく全ての被写体から撮影の許諾を得ているわけではないでしょう。しかし、多数の公衆の中には知らない間に自分や家族が放送されていることを不愉快に思う人もいるでしょう。 
 台風の中をスカートの裾をつかみながら歩いている女性にしても、まさか台風のニュースで自分が放映されているとは思っていないでしょう。
 マスコミが常に公益のために放送しているわけであはありませんから、新聞やテレビだけを特別視することにも問題があります。 また防犯や取締りのためにも記録撮影は不可欠です。
 結局のところ、撮影の正当性は撮影者と被写体の心理状態をもって判断することであって、客観的に判断しにくいため、もし法律で規制をするなら、一律を許諾を要する、ということになってしまいかねません。肖像権侵害に罰則を設けにくい理由はこのあたりにもあるでしょう。
 かといって悪質なケースが今後たくさん話題になってくるでしょうから、法律でなんらかの罰則を設ける工夫が必要になってくるでしょう。
 著作権侵害の罰則が強化され、財産権の保護が充実している反面、人格面での保護がおろそかになっている現状は、たしかに問題だと思います。 非常に難しい問題です。


◎肖像権等Q&A