著作権者と連絡がとれないとき 〜 権利者調査と裁定制度の利用

◎許諾を取ることは意外と難しい
著作権法によると、著作物を利用したいときには原則として著作権者から許諾を得なければなりません。
著作権者を探そうと思ったら、まず最初に「誰が著作者なのか」ということを考えなくてはなりません。
なぜなら、その著作物が生まれたときには必ず著作者(作者)が著作権を持っていたはずで、その後著作権を誰かに譲渡したのかも知れず、譲渡していないかもしれませんが、いずれにせよ著作権がどこにあるのかを確認するためには著作者を特定することが最も重要なのです。

「著作権表示を見ればすぐにわかるじゃないか」というご意見もあるでしょう。
しかし、著作物表示がどの程度信頼できるのか、又は適切であるのかは最終的にはわかりません。
  • <その表示が著作物の全部についてなのか、それとも一部についてなのか>
    <その表示は実は古い表示で、現在は別の人に譲渡されているのではないか>
    <表示した人が重大な勘違いをして不適切な表記をしていないか>
このような疑いを持つときりがありませんが、もしその許諾が重大な利害(たとえば商業利用や出版など)に関わる場合には、たまたま見かけた著作権表示だけで判断してしまうのは危険です。
著作権者ではない人から許諾を得ても許諾を得たことにはならないのです。

しかも、その著作物の著作権が現在も消滅せずに存在しているかどうかを判断する決め手は、やはり<著作者が誰か>という点です。
ですので、最初に特定しなければならないのは<著作者は誰か>ということです。
その後、著作権がどこに存在しているのかを著作者から聞き出し、もし他人に譲渡されたということであれば、関連する譲渡契約書の内容を確認したり、著作権譲渡の登録がされていれば文化庁で確認するなどの裏づけ調査をします。
もし調査結果と矛盾する情報が出てくれば、それについてさらに調査しなければならないでしょう。
(有名タレントさんの著作権譲渡に関連した詐欺事件が実際にありました。)
ところが、いくら調査しても著作者や著作権者が不明であったり、所在や連絡先がわからないという場合があります。
そのような場合に備えて著作権法では「裁定」という制度があります。


◎裁定制度
著作者や著作権者を探しても、いっこうに手がかりがつかめない場合や、著作者はわかったけれどすでに死亡していて遺族がどこにいるのかわからない場合、著作権者の名前がわかったけれど住所や連絡先がわからないなど、どうしても許諾が取れないという場合があります。
このような場合には、使用料相当額を供託し、さらに文化庁長官の裁定を受けて利用する方法が著作権法に定められています。
なお、平成22年1月1日からは、裁定申請後に担保金の供託をすれば仮に利用が開始できる制度となりますので、現在よりも多少は早く利用開始ができます。
裁定制度は文化庁が行う行政手続ですので、以下では文化庁のWEBサイトの情報を一部抜粋します。
まず、裁定を受けられる著作物は次の著作物に特定されています。
  • 1)著作権者の了解を得て既に「公表」されている著作物
    著作権者の了解を得て公衆向けに「出版」、「上演」、「演奏」、「上映」、「放送・有線放送」、「インターネット等での送信」、「口述」、「展示」、「貸与」などが既に行われているもの

    2)著作権者の了解を得ているかどうか不明であるが、相当の期間にわたって世間に流布されている著作物
  • 相当の期間にわたり「出版」、「上演」、「演奏」、「上映」、「放送・有線放送」、「インターネット等での送信」、「口述」、「展示」、「貸与」などが行われているもの
また、裁定が受けられるのは、「相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないとき」に限られます。
「相当な努力」について文化庁は、「利用したい著作物の著作権者について社会的に見て常識的な方法により著作権者を捜すことをいいます。単に時間や経費を要するからとか、捜すべき著作権者の人数が多いからというのは、捜す手間を軽減する理由にはなりません。 」と解説しています。

以下に私が考える「権利者探しの方法」について記載しますが、文化庁が裁定申請において求める内容はこれよりも若干簡素になる部分があるかもしれません。
平成21年10月現在、文化庁では裁定申請の運用部分について政令で定める内容を検討しており、その詳細が明らかになっていないのです。


◎権利者を探す調査
平成21年からは著作権に加えて実演家権の裁定も可能になります。
また、裁定申請で要求される調査レベルは今後若干の修正が予想されますが、おおむねの以下のA〜とおりと思われます。なお、著作者が個人であれば、没年が著作権保護期間の起算点になりますので没年も調べましょう。
権利者が複数存在する場合には、その全員から許諾を得る必要があります。
共同著作であれば著作者が複数存在していますし、権利者に相続が発生していれば相続人が複数存在している可能性が高いです。

権利者を探す場合には、以下のA〜Cの全ての方法を行うことをおすすめします。

 A 名前からの調査
  • @その著作物が公表された当時における「人名辞典」、「人事興信録」、「著作権台帳」、「名鑑」等の名簿・名鑑類等での調査で、これらのうち2種類以上の調査を行ってください。
  • Aインターネットで権利者と作品に関する情報をなるべく多く収集し、もし権利者を特定できる情報がない場合でも、その後の調査の手がかりになる情報を収集分析し活用しましょう。

  • Bその人の住所が明らかな場合については、住所地の市町村役場等への照会による調査が必要であると文化庁は説明していますが、行政資料(行政が保有する名簿等)を意味するのか、それとも戸籍住民票による調査を意味するのか少々わかりにくいところがあり、これについては今後修正される可能性もあります。
  • 私見ですが、もし権利者の住所に関する情報が得られた場合には、住民票や戸籍による調査は行うべきであると思います。
  • 住民基本台帳については除籍されて5年以上が経過している場合には情報が抹消されている場合が多いですが、戸籍関係の資料は80年間保存されることとなっており、戸籍の附票というものが入手できれば権利者の現住所まで特定できます。
  • ただし、こういった調査で必ずしも現住所にたどり着けるとは限らないので、「できるところまでの調査」になってしまう可能性は低くありませんし、個人情報保護のため、住民票や戸籍関係書類の提出や閲覧を行政から拒絶されることもよくあります。
  • しかし、住民基本台帳法でも戸籍法でも、証明書類の請求に当たっては「正当な理由」が必要ですが、権利者を探すためであれば正当な理由に該当しますので、一般の方でもできないわけではありません。
  • ただ、役所の窓口で「著作権者を探しています」と口頭で説明しても納得されない場合が多いでしょう。もし口頭の説明だけで取得が可能であれば、誰でも簡単に他人の住民票を取得できてしまいます。
  • よって、調査の目的や広告掲載に関する情報を取りまとめた資料や請求者の身分を証明する資料を提出するなどして行政窓口から理解を得る必要があります。
  • 戸籍住民票の交付に関する判断は各市区町村が行いますので、私がここで断定的なことは言えませんが、正当な理由について納得される資料を用意できればよいのだと思います。

  • Cその人の経歴等が明らかな場合については、勤務先、所属団体等の機関への照会による調査を行います。しかし、個人情報保護の問題がありますから、すんなりと情報が得られない可能性もあり、ここでも調査の趣旨を説明できる資料や身分証明書類があった方がよいでしょう。(あればすぐに情報が得られるという意味ではありません。)
  • また、勤務先、所属団体等がすでに所在地を移転していたり、団体として存在していなかったりすることもありますが、もし可能性があれば商業登記簿等で団体等の代表者を特定して連絡をとる方法もありえます。但し、文化庁ではここまでの調査は要求していないものと推測します。

 B 広告の実施
  • 利用者が自己責任で行うもので、「こういう事情で権利者を探している」ということを広く世間に知ってもらうための作業です。
  • 裁定申請において文化庁では、
  •  @インターネットのホームページ(2月以上)
  •  A新聞・雑誌等
  • のいずれかによる広告掲載を求めています。
  • しかも現在のところ、インターネット上での広告については著作権情報センター(CRIC)のWEBサイト上での掲載か、又はそこからのリンクも求めています。
  • 広告掲載はなるべく早く実施したほうが裁定を早く受けられる結果になりやすいので、もし裁定を受ける可能性が高い場合には広告掲載について早い時期に取り組んだ方がよいと思われます。
  • ※掲載場所については今後修正される可能性があります。特定団体での広告を行政が強制することは望ましくないとも考えられるからです。また、実演家権については別の業界団体での広告が必要になるのかもしれませんが、平成22年以降の運用の詳細はまだ未詳の部分があります。

 C 研究機関や権利管理団体等への照会
  • 「その著作物に関する造詣が深い研究者や機関(学会、作家団体など)が存在する場合については、研究者や機関への照会による調査」が必要であるとと文化庁は説明しています。
  • また、JASRACなどのように権利を一括管理している機関では権利者の情報が蓄積されていますので、その著作物に関係しそうな機関があれば調査してください。
  • 要するに、著作権調査に必要な情報を持っていそうな人や機関に聞きましょう、ということです。

 著作権者を探す調査の方法は、その状況次第でいろいろありえますが、文化庁では下記のサイトで具体例を示しています。
 「例」ですから、これが全てではありませんが、文化庁としてはこの程度の調査をすれば「相当な努力」として認められるという見解です。
 仮に文化庁の裁定が得られても、後日著作権者が発見されれば、その後の利用については別途協議しなければなりませんから、裁定制度を安易に頼ることはあまり良いことではありません。
 供託金の還付請求権は時効消滅後に国庫に帰属することになりますが、国が裁定をし、その供託金を国が取り上げると言う仕組みはいかがなものでしょう。
 少なくとも、安易な調査で簡単に裁定される状況にはなってほしくないと思いますし、権利者側及びその相続人の皆様も、著作権について日頃注意を払っておいてもよいでしょう。
 文化庁が考える広告期間はわずか2月で、2月経過後に広告掲載情報を削除してしまう団体もありますから、2月に1回のペースで著作権情報センターなどの情報を閲覧するのもよいでしょう。
 また還付請求権の消滅時効は10年ですので、裁定されたからといってあきらめることはありません。

 著作権者と連絡する方法の具体例(文化庁)

文化庁の裁定制度についての解説は以下に詳しく記載されています。
 著作権者不明の場合の裁定制度(文化庁)


◎裁定申請において提出すべき書類等
裁定申請において求められる申請書の内容及び添付資料は次のとおりです。
  • (著作権者不明等の場合における著作物の利用に関する裁定の申請)
    第8条
  • 1 法第67条第1項の裁定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を文化庁長官に提出しなければならない。
    一 申請者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人(法第2条第6項の法人をいう。以下同じ。)にあつては代表者(法人格を有しない社団又は財団の管理人を含む。以下同じ。)の氏名
    二 著作物の題号(題号がないとき又は不明であるときは、その旨)及び著作者名(著作者名の表示がないとき又は著作者名が不明であるときは、その旨)
    三 著作物の種類及び内容又は体様
    四 著作物の利用方法
    五 補償金の額の算定の基礎となるべき事項
    六 著作権者と連絡することができない理由
    2 前項の申請書には、次に掲げる資料を添附しなければならない。
    一 申請に係る著作物の体様を明らかにするため必要があるときは、その図面、写真その他当該著作物の体様を明らかにする資料
    二 著作権者と連絡することができないことを疎明する資料
    三 申請に係る著作物が公表され、又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかであることを疎明する資料

  • (著作権者不明等の場合における著作物の利用)
    第六十七条  公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。
    2  前項の規定により作成した著作物の複製物には、同項の裁定に係る複製物である旨及びその裁定のあつた年月日を表示しなければならない。