小学校教諭逮捕のニュースで
 交通事故で亡くなった児童の画像をホームページに掲載していた教師が逮捕されたというニュースについて。逮捕容疑が児童買春・ポルノ禁止法違反だそうで、無断転載した点については著作権法違反でも立件する見通しとのこと。
しかし、もしこの事件の内容が、<児童ではなく大人の写真で>、<写真を撮影したのが掲載者自身だった>としたらどうだったでしょうか。
もしかすると刑事的な訴追はできないか、名誉毀損などの軽い罪での立件で終わったのではないでしょうか。

 そもそもこの件で問題になっている核の部分は、事故で犠牲になった人たちの写真を公衆に見せるという点であると思います。侵害されたのは故人のプライバシーと考えてよいでしょうか。侮辱的な文章を添えたことはもちろん問題ですが、これについては名誉毀損罪など刑法の規定で罰則がすでにあります。しかし、児童買春・ポルノ禁止法(正式には「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」)は児童の権利を保護するのが目的であり、著作権法は著作者(このケースなら写真を撮影した人)の権利保護と文化の発展が目的となっていて、もともと今回の事件のようなケースを想定した法律ではありません。

 警察としては、「こんな悪いやつを逮捕したいけれど、適用できる法令を探したらこれしかなかった。」と考えたのではなかったでしょうか。不幸にも事故でなくなった人の写真を勝手に撮影し、その画像をホームページに掲載しても刑事責任を問われないという状況。これは早急にどうにかすべき問題だと思います。
 この数年の間に日本社会はカメラ社会になってしまいました。私達のプライバシーはいろいろなところで記録され利用される危険があるのです。

 もし被害者が民事賠償を請求するならばプライバシー権の侵害を根拠にできるでしょうが、プライバシーの侵害について刑事的に直接の責任を問う法律は見当たりません。条例では、一部の都道府県で盗撮などに罰則がかせられていますが。
 人の姿や名前を不当に利用されたら民事賠償の請求は認められても、刑事責任を問うことができません。もし加害者が無一文で賠償能力がないとしたら、被害者としては手も足もでないということです。
 プライバシーの侵害として見ても、今回のケースはもっとも重大な人権侵害にあたると思いますが、結局は児童ポルノとか著作権侵害といった点でしか立件できなかったという点について法制度上の問題が露呈していると感じます。プライバシー権は人格権の一種で、人格は人間にとって命の次に大切なものだと思います。
 著作権などの財産権の侵害でさえ処罰されるのに、人格権の侵害が不問に処されるというのはいかがなものでしょうか。法律が想定するよりも、一般市民は人格的侵害に対して敏感な場合があります。

 肖像権については民事上は判例解釈のみで運用されていて、あくまで民事の世界での話にとどまっていますが、テレビ画面とカメラがそこらじゅうにおいてある時代になったのですから、個人の肖像を保護する制度について真剣に考えるべきではないかと思います。刑事罰の問題だけでなく、肖像権の保護期間など整備しておく問題が多々あるはずですが、あまり注目されていません。ビジネスにおいて邪魔になる点ばかりが法律の規制を受けていて、一般市民の日常生活上の権利があまりに軽視されている現状に不安を感じます。ジャーナリズムにとっては人格権の保護は報道の自由と対立する存在であるからか、あまり重視されないようです。肖像権なんてものはビジネスやマスコミにとってはどうでもよいのかもしれません。今回のニュースも単なる<異常な性癖の教師の事件>で終わってしまうのでしょうか。